池田ハープ
2000年3月初め。ベトナム中部フエ市(人口三十万人)にあるストリートチルドレンの保護施設「子どもの家」でハープの演奏会が行われました。ベトナム戦争が終わって25年。 まだまだ戦争の痕跡の残るベトナムフエ市では、ピアノさえ見たことがありません。
そんな中でハープの演奏会が行われたのです。ちょっと前まで路上で寝泊まりし、物乞いをしていた子どもたちが、ハープ演奏をどう受け止めるのだろう。私は多少の不安と期待を持って演奏会を迎えました。 ハープ奏者の池田千鶴子さんが静かに演奏を始めました。子どもたちは、大きな目を見開いて聞き入っていました。 今まで見たことも聞いたこともない音を。
3歳から公園に寝泊まりし物乞い生活をし、ケンカに明け暮れていた13歳のL君の顔がやわらかな感じになりました。子どもたちの顔が何か「フニャフニャ」になったような気がしました。
演奏会は途中で、「子どもの家」の子どもたちがいつも歌っている歌の演奏となり、子どもたちは「音の魔法」から解けたかのように大声で歌い始めました。
「子どもの家」での演奏会が終わり、次は障害児のリハビリテーション施設「フエ平和村」での演奏です。果たして障害児がハープの演奏をどこまで理解できるのだろうか?
どんな反応をするのだろうか? 私は大きな不安を胸に演奏会に向かいました。
演奏会には障害児とお母さん、お父さん50人程が参加。静かに始まった池田さんのハープ演奏。段々演奏が佳境に入っていきました、普段は大声を出したり、多動な障害児が本当に静かに聞いているではないか。
私は、一人の障害児を見ました。子どもに笑顔が戻ってきているのです。
すやすや眠り始めた障害児もいます。子どもたちは気持ちがいいんだな、と私は思いました。
路上でけんかと物乞いに明け暮れていた「荒くれの子どもたち」や障害児の心に確実に何かを伝えた池田ハープの魔法の秘密は何だろうか。
しかし、東京など大都会でマスコミに乗って派手に活躍することも出来るのに、わざわざベトナムの地方農村のストリートチルドレンや障害児にハープを聞かせたいと願った池田さんの心が子どもたちに通じたのではないかとも思えるのです。
(2000年12月14日 ベトナムの「子どもの家」を支える会
ベトナム事務局長 小山 道夫)