北海道立旭川美術館で行われているアロイーズ展は、いよいよクライマックスを迎える。企画立案から携わってきた者としては感慨深い。 この二年間、アロイーズを見つめ続けてきた日々だった。多くの時間を費やすことで、アロイーズ・コルバスという人物をとても身近に感じることが出来るようになった。
 私は、昨年の十二月二十三日、ハープ奏者の池田千鶴子さんのアロイーズ展覧会内でのコンサートで、とても不思議な体験をした。
池田さんにとっては今展二回目の演奏で、クリスマス前日ということもあってクリスマスにちなんだ厳かな曲を弾いてくださった。
 池田さんは「ヒーリング」というミュージックセラピー法の奏法で名高く、多くの苦難を抱えた人々のところに行ってはハープを弾き、人々の心に安らぎを与えている。
そのためには戦火のサラエボまでも行ってしまうのだから凄い。
十五年のお付き合いになるので、どれほど池田さんの演奏を聞いたか数知れないが、今回の演奏は今までとは違っていた。私はハープの音色に集中してアロイーズの絵を頭でイメージしつつ聞き入っていた。すると、リアルに緑の庭園の中で、ドレスを着飾った若々しいアロイーズが歌い踊っているイメージが頭に浮かんできた。内心びっくりしていると、そのアロイーズは私に微笑みかけてくるではないか。嬉しさのあまり涙が出た。まるでそれは現実のようだった。
 アロイーズは子どものころから音楽を愛し、オペラを熱心に学び、教会では讃美歌を歌い上げたこともあった。アロイーズの絵の中にはきっと彼女の頭の中で奏でられていた音色が凝縮されて描き込まれていたのだろう。四十六年間の精神病院で隔離された生活とは裏腹に、彼女の心は、いつまでも若々しい自分が、愛する人と平和に踊り暮らしている日々だったに違いない。
 そう思うと、私はアロイーズの精神世界をハープの音色に導かれて、訪ねることが出来たのかもしれない。 
 
【工藤和彦・くどうかずひこ】
1970年神奈川県生まれ。陶芸家。知的、精神的な障害のある創作者の芸術活動を支援するボーダレス・アートギャラリー「ラポラポラ」のプランナー